五輪塔は、その形態が率直簡明にして荘厳、石塔の中で最も広く、しかも盛んに造られてきた卒塔婆(そとば)である。

真言密教では、五輪塔は大日如来の三昧耶形で、その形態自体が仏体を表示していると説いている。すなわち、宇宙は地、水、火、風、空の五大からなりたっていて、この五大が宇宙にある一切の物質に偏在して、その物質を構成するもととなっているという密教の五大思想に基づいてつくられたものである。

 

五輪塔

 

この五大は、五輪と呼称される五つの形で象徴、表示され、方形の地輪、円形の水輪、三角形の火輪、半円形の風輪、宝珠形の空輪がそれである。
五輪塔は、この五つの形を順次、下方より積み重ねたもので、塔自身がこの五大を表象している。それ故に五大思想に基づいて創始されたこの五輪塔は、人間の姿であると同時に仏さまのお姿であり、宇宙万物の相であると同時に宇宙全体、森羅万象を象ったものということができる。

さらに密教は、一切のものは物質と精神、身と心とでつくられているとして、物質界を「地水火風空」の五大とし、精神界を「識」大として説いている。五大を表示する五輪塔は物質界のみを表したかのように考えるが、目に見えない識大の精神界は、この五輪塔全体のなかに含蔵遍満しているとするのである。また、地輪の方形と水輪の円形は、本体すなわち実在界の形であり、火輪の三角形、風輪の半円形、空輪の宝珠形は、変体すなわち現象界を表しているとする。したがって五輪塔は、実在界の上に、変幻きわまりない現象界を配したものなのである。

 

五輪塔

 

このように五輪塔は、密教における六大の標識でり、六大法身、金胎両界、理知不二、円満具足の象徴ということができる。五輪の「輪」は、法性に「輪円具足」するという意味で、五輪塔は一切の功徳を円満具足している意義深い塔ということである。宝篋印塔と同じく、五方、五門、ご智、五如来を表示し、金胎両界の五仏つねにここにあって法輪を転ずることになる。塔そのものが如来の尊容、仏さまの尊体そのものであることから、供養塔としてのこの五輪塔を建てることは、仏そのものをおつくりすることであり、これにまさる功徳はないのであろう。

五輪塔の四門には、密教系では、上から各輪に空、風、火、水、地を意味する五大種子を次のように掘る。東面が正面で、「願を発心し、修行を積み仏になるための菩提への道を歩み、我欲を離れて涅槃の世界に入る」という右まわりの表示方法である。顕教では、水輪に「南無 阿弥 陀仏」「南妙法蓮華経」というように表示することがある。